「はあっ…。」
少し、はだけていた襟に自ら手を差し入れ、さらに広げる博雅。直衣の袷が開き、中の桂とその下の単までもがへその見えるあたりまで開けられた。
なめらかな体にうっすらと汗をかいているのがわかった。
「暑いのか?博雅どの。」
乱れた博雅の姿によき眺めだと思いながらも、そ知らぬ顔で聞く。
「あ?…ええ。ええ、なんだか急に暑くなっちゃって…。ふうっ。暑い…。」
ぼうっとした様子ではたはたと顔を手で仰ぐ博雅。顔といわず手といわず、全身が熱を持った様に暑い、いや,熱い…。
この熱さは…あれだ…。
ぼうっとした頭でも、体の奥からじんじんと沸いてくる熱の意味はわかっている博雅。
(晴明…)
酔いと媚薬と、そして朱呑童子の呪、いろんなもののまわった頭で晴明を恋う。その恋うる想いがさらに体の熱を増す。
体が細かく震えだしていた。
(せいめえ…)
思わず目をつぶった。
「博雅どの?」
ついと立ち上がって、朱呑童子が目をつぶって動かなくなってしまった博雅の傍へと寄る。博雅のおぼつかない手から杯を取り上げ、博雅の顔を上げさせると額に、その冷たくも美しい手を当てる。
「まるで熱があるように熱い。大丈夫か?」
ひんやりとした朱呑童子の手に、閉じていた目を開ける博雅。体の熱っぽさでうるうると潤んだ瞳は、まるで恋人の口づけを待っているようにも見えて。
朱呑童子の目が細められる。
「博雅…」
その名を小さくつぶやくと返事を待つこともなく、その熱い唇をふさいだ。
「…んっ。」
ぼうっとしてさして抵抗もしない博雅をしっかりと抱きこんで、口づけを深めてゆく朱呑童子。酒の香りのする博雅の熱い咥内を、人とは違う長い舌で探ってゆく。柔らかな博雅の舌を見つけて絡ませる。
晴明とは違うその口づけに、それでも媚薬のためか博雅から甘い吐息が漏れる。
「…はあ…。」
(甘やかな唇よの…。こんなにも甘いものを独り占めにしておったか、晴明のヤツめ。)
博雅の背を支え、口づけながらその身を横たえてゆく朱呑童子。鋭くとがった長い爪を持つ手を、はだけられた博雅の衣の中へと滑り込ませてゆく。
(なんと滑らかな肌。喰らえば、さぞや美味かろう…。)
だが、この世に二つとない珠玉の魂を持つこの男。喰らってしまうにはあまりにも惜しい。
横たえられて、くたりと力の抜けた博雅。
まわった酒と媚薬のために誰と体を重ねようとしているのかわからなくなっているようだった。くらくらする頭とじんじんと熱い体。ぼうっとするその瞳には、白い貌と紅い唇の朱呑童子の姿が晴明に見えていた。
「…せいめえ…」
甘えたように呟くと朱呑童子の首に手をかけ、自らの唇に引き寄せた。童子の唇に自分のほうから口付けてゆく。
(おや、晴明のヤツと間違えられたか。面白くないがこの際、仕方がないか…。)
にしても媚薬のせいもあるとはいえ、普段の礼儀正しい博雅と今の博雅のなんと違うことか。ここまでにしてしまったのが晴明なのか、それとも元からこうなのか。
きっと、ヤツのせいだな。まったく、美味しいところばっかり持っていく嫌な男だ。
京の西のはずれになんだか美味そうな子供がいると妖しの間で噂になっていたのを聞いたとき、まさかそれが博雅であったとは思いもしなかった朱呑童子。
くだらぬ噂話など我には関係のないこと。…それにしても、今の世のなんと、つまらぬことよ。妖しの生きるべき闇も、人の念いも何もない今の世の中に、すっかり嫌気が差していた朱呑童子。
いっそのこと、己の存在も消えてしまえばいいのにとすら悲観していた。
「へい、朱呑童子のだんな。こんなところにいたのかい?」
仁和寺の五重の塔の屋根瓦の上で、ネオンきらめく京の夜景をつまらぬ思いで眺めていた朱呑童子に、ある日黒川主がたずねて来た。
「なんだ、おぬしか。…こんなところまで何の用だ?」
ちらりとすぐそばに立つ黒川主を見たが、またすぐに視線を遠くに戻した。
「聞いたか、例の子供の話?」
「例の子供?…ああ。なんだか誰かが噂しておったな。今時珍しい、美味そうな魂を持った子供がいるとかなんとか。」
だが我はそんなことには興味などないと,童子はつまらなさそうな顔で言った。
「へえ、興味なしかい。でも、いいのかなあ?ほっといて…。結構、いろんな妖しに狙われてるぜ、その子。」
「だから、どうでもいいと言っているだろう。この世の中、たった一人子供がいなくなったって誰も驚きはしないさ。」
「ふうん…、たとえばその子が、あの『源博雅』であってもか?」
にやりと笑って黒川主が言った。
「どういうことだ…?」
くるりと朱呑童子が黒川主の方を向いた。その瞳はさっきまでの、興味のない冷めたものではもうなかった。
「やはり、知らなかったんだな。俺も、実は今日はじめて知ったんだがな。」
妖しの噂に上るほどの魂をもつ子供とはどんな子だろうと、興味をもった黒河主。少し足をのばして、京のはずれにあるというその邸まで出かけてみた。
大きな屋敷の庭で飼い犬と遊んでいるその子供を近くの樹の上から見たのだが、どうにもどこかで見たような覚えがある。
(こんな人間の子供に見覚えがあるなんて?)
周りにいた妖しどもを追っ払うと、腰をすえてじーっ、とその子の顔を見つめた。
(誰だ?絶対知ってるぞ、この子。)
自分と同じほどの大きさの、外来種と思しき犬に押し倒され顔をなめまくられて、その子供がきゃらきゃらと笑った。
その抜けるような明るい笑顔…。
(まさか!…博雅どの?)
千年の時を経てもなお、忘れることなどできないあの人間たち。
晴明と博雅。
その片割れがここにいた。
(間違いない。あれは博雅どのだ。)
思わず笑みがこぼれた。
早速、自分の配下の妖しを呼びつけると、誰も博雅に手出しをさせぬよう守っておれと言いつけた。
(やっぱり、あのお方には知らせてやったほうが「親切」というものだろうなあ。)
親切というよりは、恩を売るといったほうが正しかったが。
そんなことがあって、朱呑童子はその翌日には応天門で博雅を待ち伏せて、実に一千年ぶりの再会を果たしたのだった。
あれからずっと博雅を守ってきた。
なのに、遠く離れていて、お互いの存在も知らなかったというのに、まるで磁石のごとくまたしても博雅と晴明は引き合った。せっかく誘惑できる年頃になったというのに、あっというまに晴明に博雅を取られてしまった。
思い返すだけでも腹立たしいことであった。
せめて、今宵一晩くらいは我のものになってくれてもよかろう?博雅殿よ。
情けない話だが博雅の感情のことである。彼の人をそれなりに大事に思っている朱呑童子には無理強いはできなかった。酒に酔わせて同意した上で体を重ねたい。
博雅に拒絶されるのだけは嫌だ。
博雅の衣を肩から落とし、そのあらわになった体に紅い唇を這わせてゆく。
「ああ…晴明…。」
博雅の口から、またしても興ざめのするヤツの名前がこぼれる。
やる気がうせるぞ、博雅殿…。
困ったように博雅を見下ろす。
せっかく襲いやすいようにと指貫もはかせなかったのに、一度ならまだしも、こうも何度も晴明の名を呼ばれては…。
と、そのとき、この奥の間へと続く渡り廊下の方から騒がしい声が響いてきた。
(来たか…。)
やれやれと身を起こし自分の身なりだけを整えた。半裸の博雅はわざとそのままにして。
「晴明さま。お待ちください!そちらに参られては困ります!」
「晴明さま!どうかおとどまりを。」
屋敷の者が止める声が聞こえる。
(まあ、止まるわけもないだろうよ。)
どすどすと晴明にしては荒い足音が響く。
(かなり怒ってるな。)
胡坐をかいてその片足の上に片ひじをつき、その手のひらにあごを乗せて晴明が来るのを待った。
半分おろされた御簾を払いのけて晴明が入ってきた。
無言のまま、部屋をぐるりとみまわし、朱呑童子とその傍らで上半身をさらしてぐったりと横たわる博雅の姿を認めるや、その切れ長の瞳が刃のようにせばめられ、口元がピクリと引きつった。
「おう、晴明。来たか。」
「朱呑童子どの…。」
朱呑童子は晴明の後ろでおろおろとするものたちに、行けと合図して下がらせる。
「せっかく、これからというときに、なんとも無粋な奴だな。」
ちらりと、目を閉じて横たわる博雅に視線をやって、朱呑童子が微笑んだ。
「残念ながら、それは私のものですから『これから』などということは、けっしてありません。」
白のジャケットのすそを翻して晴明が二人に近づく。博雅のそばにひざをつき、直衣の襟をかき合わせると、その手がふいに止まり、ぎろりと朱呑童子を睨む。
「お戯れが過ぎやしませんか?…童子どの。いったい博雅になにを盛ったのです?」
「遠野の名酒を少々な。」
「それだけではないでしょう?」
「ふん。ばれたか。ほんの少し酒に媚薬を混ぜただけだ。だが、まだ、肝心のことに及んだわけでもないのだから良いではないか。
そう怒るな、ケチめ。」
穏やかな言葉とは裏腹に目には険しさをたたえて朱呑童子が言った。
「ケチで結構。」
もしヤッた後だったなら、たとえ鬼王朱呑童子といえど、一戦構えるつもりだった晴明。
「博雅は連れて帰りますからね。」
ぐったりと力の抜けた博雅を抱き起こす。
「おい、博雅。帰るぞ!」
晴明に声をかけられて博雅の目がうっすらと開いた。
「…んん?せいめえ?」
「そうだ、俺だ。しっかりしろ。ろれつがおかしくなってるぞ、おまえ。」
「ろれつう?なーに言ってんだ、俺はちーっともおかしかぁない。それよりも、せーめえ!会いたかったあ!」」
酒と媚薬で完全に酔っ払った状態の博雅。半分泣きっ面になって晴明の首にかじりつく。
「ぐえっ…!こ、こら博雅。そんなに力いっぱい首をしめるな。苦しい!」
そんな、息の合った漫才のような二人のやり取りを、やってられないな、と冷たい目で見ていた朱呑童子。
「…我にはおぬしたちのような漫才はできないな。勝手に帰れ。我はもう寝る。」
ぱっと立ちあがって出ていってしまった。
「誰か我の相手をしろ。」
廊下のほうから朱呑童子の声が聞こえた。
それに答える複数の声がした。鬼の一族とも思えぬほど美しい妖しの者を屋敷の内に多く侍らせている朱呑童子、夜伽の相手になど本当は事欠かない。
(博雅殿が一番欲しかったのだが、まあ、今宵はあきらめるさ。また、今度な、博雅どの…。次はあいつの名など呼ばせたりはしないからな。)
決してあきらめたわけではない朱呑童子であった。
しがみつく博雅を運ばせるために式を呼ぼうとした晴明。
「急々如律…む…!」
呪を唱えようとした晴明の口を博雅が手でぱっとふさいだ。
「だめら!せえいめいっ!式なんかよぶなあ!」
「こらっ!なにするんだ。博雅。」
博雅の手をはがした。
「式なんかよぶなよう。俺はおまえがいいんだ」
「まったく…この酔っ払いめ。式より俺のほうがいいって言うのか?博雅。」
はがした手の平に、ついでにくちづけた。
「うん。おまえのほうがいい。おれはせいめえだけだからなっ!式なんかいやだ!」
ニコニコと上機嫌な顔で答えた。
「では仕方がないな。こんなところにはとっとと出たいしな。ほら、俺の肩につかまれ。」
博雅の腕の下に手をいれると自分の肩に博雅の手をかけさせ立ち上がらせる。ふらつきながらも何とか立ち上がった博雅。額に二本の指を当てると小さく呪を唱える晴明。
「呻!」
二人の姿が朱呑童子の屋敷より消えた。
その後、博雅の車に戻り帰ってきたふたり。月明かりが細く差し込むだけの暗いリビングへ晴明が抱えるように博雅を連れて入ってきた。二人倒れこむようにソファへと崩れこんだ。
下になったのは晴明のほうだった。
「こら、重い。どけ、博雅。」
ぐったりと力なく全体重をのせている博雅に文句を言う晴明。
「…いいにおいだ。」
返事をする代わりに晴明の胸の辺りに顔をうずめた博雅が小さくつぶやいた。
「なんだって?」
よく聞こえなかった晴明が聞き返した。
「俺の花…。」
「花?」
「晴明って名の俺だけの花。その匂いがする。いいにおいだなあ…。」
晴明の胸元を開け鼻を摺り寄せてくんくんと匂いをかぐ博雅。
「なんだ、匂いフェチであったか、博雅は。」
くすくすと笑う晴明。
「ばあか。何とでも言え。」
晴明のシャツの襟を掴んで、博雅がそののどもとにぺろりと舌をはわせた。
「しかも、おいしい…。」
鎖骨のあたりをかじる博雅。
「食うなよ。」
博雅の体を引っ張り上げて晴明が博雅に下から口づけた。
先ほどの朱呑童子のくちづけをかき消すように博雅の後頭部を押さえ深く激しくくちづける。博雅の舌を捕まえて自分の咥内へと引き込む。
「んん…んっ。」
目を閉じた博雅の鼻からあまい吐息がもれる。博雅の指が晴明のシャツのボタンにかかる。
性急に舌を絡ませて口付けながらも晴明のシャツの前を開け、その硬い胸に両手を這わせてゆく。
「はあ…っ」
名残惜しそうに晴明の下唇を甘噛みして唇を離すと博雅の頭が下へと降りてゆく。いい匂いだとつぶやきながら晴明の体のあちこちに口づけをさまよわせてゆく。
(さては媚薬のほうも効き始めたか。)
酔っているとはいえ、常になく積極的な博雅にこれが朱呑童子相手でなくて本当によかったとほっ、とする。
滑らかな晴明の体に吐息とともに手のひらと唇を這わし続ける博雅。ズボンのベルトに阻まれてその唇が止まった。
しばらく躊躇していたようだったが…。
(媚薬の効き目もここまでか?)
と晴明が博雅の背に手をかけようとしたそのとき、博雅が動いた。晴明のズボンのベルトに手をかけると震える手でそれをはずしはじめる。
「おい…、博雅。無理しなくともよいぞ。」
「黙ってろよ。晴明…。」
顔も上げずに博雅が言った。その耳は真っ赤だ。
博雅の手によって晴明のズボンの前がはだけられ、まだたちあがってはいない晴明のものがひき出される。博雅は両手でそれを包み込むように持つとゆっくりと震える舌をはわせ始める。裏に沿って舌をすべらせると思わず晴明の唇からほう、とため息のような声が漏れた。一番上まで舐め上げると今度は下に向かってついばむように軽くくちびるで咬んでゆく。
茎ではなくその下のもっとも柔らかいところを片方づつ口に含んで転がす。その間も手は晴明の茎をゆっくりと上下にさすり続けていた。
二つのそれを味わった後、また、下から上へとなめ上げてゆき、今度は口を大きく開いて、硬くなりつつある晴明のそれを頂きから口内へと奥深く飲み込んで行く。舌をそれに絡ませながら唇を上下させる。
「…んん…はふっ…」
時々わずかに開けられる博雅の唇からなんとも甘い吐息がもれてくる。
(たまらないな…)
脚の間に膝をついて自分のものを一生懸命になって口に含む博雅が愛しくて仕方がない。思わず博雅の髪に指を絡ませるとくしゃりと乱した。
晴明のものを博雅の唇が上下するたびに、月明かりが差し込む静かな室内に隠微な唾液の音が響く。
強く吸われて晴明は思わず博雅の髪を掴んでその動きを止めさせた。
「もういい…。博雅。お前の唇の中に出してしまうわけにはいかないからな。」
まだもう少しと嫌がる博雅の唇をむりやり外させる。
「おいしかったのに…晴明のけち。」
晴明のものにすりすりとすりつく博雅の顔を上げさせる。うっとりとした表情で唇を開いている無防備な博雅。いまだ着たままの直衣の前がゆるく開いている。
その腰に締められた同色の帯を解き、直衣を肩からすべり落として脱がせる。
髪をくしゃくしゃに乱し、一枚残った単の片側が肩から滑り落ちた様がなんとも艶っぽい。いつもならば、一枚脱ぐたびに恥ずかしがって大騒ぎする博雅が、今日はすべてにおいて積極的だ。
(媚薬のせいとはいえ、このような博雅も大いにそそるものがあるな。)
たまに媚薬を盛るというのもアリかな、とちらりと悪い考えが頭をよぎる。
「来いよ。博雅…。」
両手を博雅に向かって広げる。
脚に絡んだ重い直衣を蹴って、博雅が晴明の首に手をかけその腰をまたいだ。
「せいめえ…」
立ったまま博雅が泣きだしそうな声で晴明の名を呼ぶ。
「ほら。」
晴明の両手が博雅の腰をそっと自分の方へと引き寄せる。単のすそを割り、その下に何も身に纏っていない博雅の脚を広げさせる。自分の顔の前までその腰を寄せると、心もとなげに揺れて立ち上がっている博雅のものを口に含んだ。
「ああっ…!!」
崩れ落ちそうになる博雅の腰を支えて、晴明の紅い唇が博雅のものを愛撫する。媚薬の効いた博雅にとっては地獄のように甘美な責め苦であった。
「あっ!…だめだっ…、まだ、いや…だ…せいめい…」
まだ、イクのはいやだと涙する博雅。
「わかってる。本当にほしいのはこれだろう?博雅。」
博雅のものをその紅い唇から開放すると、ひざの裏に手を入れその腿を大きく開いて、自分の腰の上にと重ねてゆく。
「…んっ!…」
晴明のものが博雅の双丘の奥の秘められた場所を探り当てた。晴明の手に導かれる博雅。
「ああっ…。」
博雅の背が弓のようにのけぞった。晴明の容量を増したものが博雅の身を割るかのようにその身に沈められてゆく。その間中ずっと、博雅の口からは、とぎれることなく濡れた声がもれ続けた。
博雅の後孔を深々と自分のものにつなぎ止めた晴明。その締め付けの凄さに思わずため息が出る。
「凄い…博雅。お前のここは、どんな女よりもいい。」
博雅の腰を掴み動くように伝える。晴明の肩に手をかけて博雅がゆっくりと晴明の上で動き始める。自分の中を晴明のものがいっぱいに押し広げて、行きつ戻りつするその快感に博雅の目尻から涙がこぼれた。
晴明のものに絡みつく博雅の蕾。
晴明の手が博雅の立ち上がって天をむいた男の証をきゅっと握りこむ。
「…うんっ…」
博雅が後ろと同時に与えられるその刺激にびくっと反応する。片手で博雅のものを嬲りながら、もう片手は博雅のあごを取って、そのうっすらと開いた熱っぽい唇を自分の唇に重ねさせる。
汗ばんで上気した額にくしゃくしゃに乱れた髪。
長いまつげを伏せて晴明の口づけを受ける博雅は、ほかの誰にも見せたくないほどに艶めいて。
その長いまつげを半分ほど上げて、口づけの合間に博雅が晴明を見つめた。
「せいめい…」
「うん?なんだ?」
鼻のくっつきそうな近くで晴明が答えた。返事のついでに、もう一度軽く口づけた。
「すごく…気持ち…いい…ん…」
晴明の首に両手を回して抱きつくと、その耳元で博雅がつぶやいた。
「そんなにいいか?」
首から博雅の手をはずしてもう一度、自分と正面から向き合わせると晴明が聞いた。
「…ああ。」
その端正な顔をほころばせ、なんともいえぬ艶を放って博雅がうっとりとうなずいた。
「それはよかった。俺のこれはおまえだけのものだ。そのお前を満足させられなければ、お前の花としての俺の存在意義がなくなるからなあ。」
晴明の言葉に博雅がうなずいた。
「ああ、確かに俺だけの花だ。…愛してる…晴明。」
にこりと笑う博雅。
「うれしいことを…。」
そう言って博雅以外には見せぬ本当の笑みを見せると、その双丘をぐいっと開き自分の物を博雅の一番深いところへ届かせた。
「ああっっ!!」
そこから博雅の背筋を快感が駆け登った。目の前が真っ白にはじけた。
引きつる博雅の背を支えて晴明が言った。
「そして博雅、お前も俺だけの花だ。俺の手の中でだけ咲け。」
自分の刻印を押すかのように、晴明のものが博雅を貫いた。
「あっあっ!…せいめえっ!!」
晴明の腹の上に博雅が精を飛ばして博雅が達した。
切れ長の瞳を凶悪にすら見えるように細めて晴明が博雅の中で弾けた。
「誰にも譲らぬからな、この花は…。」
ぐったりとした博雅の耳に低い声で晴明が静かに告げた。
次の朝。
いつもの寝室で目を覚ました博雅。頭ががんがんと痛い。
「うう…。」
「目が覚めたか。博雅?」
隣で晴明が言った。
「うん…けど、頭が痛い…うう。」
「飲みすぎだ。仕方がなかろう?」
博雅の顔を自分のほうに向けさせる。
朝の光にまぶしそうに目を細めて博雅がまたうなった。
「う〜ん。こんなこと初めてだ…。昔も今も二日酔いなんてなったことないのに。」
「まあ、その酒があの朱呑童子からのものであれば常とは違うこともあるだろうよ。どうだ、迎え酒の変わりに…やるか?」
とたんに昨日のことを思い出した博雅。まるで自分とも思えぬような昨日のことはしっかりと記憶にあった。ばっと耳まで赤く染めて思わず声を上げた。
「ば、ばかっ!」
その自分の声が痛む頭にずかんと響いた。
「ううっ!痛たああっ!」
頭を抱えてもがく博雅を鼻で笑った晴明。
「俺の言うことも聞かず、あんなところへ行ったりするからだ。ふふん、自業自得だ。」
博雅の痛む額を、その指先でピンとはじいた。
本日の、殿上人源博雅の予定は…二日酔いによる物忌…。
ちょいやばのくせに長々と続いてしまって。なんだか、いろんなところに飛んだお話となってしまいました。
でも、お酒って本当に怖いですね。気をつけましょう。(実感こもってるなあ)